ニックネーム:Mr.Pitiful
タイトルの "R 'n' S & B" は "ROCK 'n' SOUL & BLUES"。 "+ c" は, 最近聴き始めた Country Music 。
2006年10月26日(木)
AVALON
最近の図書館は,ネット上で蔵書を検索できるようになっていて,たまたま「浅川マキ」で調べてみると,1985年に出版された『幻の男たち』が,職場近くの図書館の書庫にあった。
当時は,もう「難解」になってしまっているマキさんから遠ざかっていた時期だったので,そんな本が出版されたことには全く気付いておらず,その後読んでみたいと思い始めたころには,既に絶版だった。
今回初めて読んで,そのあまりにも生々しい内容にいささか持て余し気味だったところ,↓のような箇所に出会い,思わず声を出して笑ってしまった。

「(前略)
 酒場のママは,わたしのことを歌手だと知っている。だから,ときどきは音楽のはなしになる。だが,それはめったになかったし,それも彼女の方からそんなはなしを持ち出すことはない。だが,新しく発売されたレコードをかけるとき,それとはなしに,わたしの様子を見ているようだった。そして今夜は,古い演歌を鳴らし続けている。どのぐらい経っただろうか。若いママは,金色の大きな輪のイヤリングをはずすと,棚の隅にポンと置いた。それから一枚の新しいレコードを取り出す。そのロックのアルバムのジャケットは,黒を基調にして,深い碧色の向こうに黄土色の空が拡がっている。音が聞えてくると,これまでに鳴っていたものと違う,それはこの店の古い型のスピーカーからでさえも,ひどく新しく響いてきた。それでも,店のなかで,思い直したような気持ちになったのは,わたしとママだけだったかも知れない。
「いいね」
 わたしは,そう言ってタバコに火を点ける。すると,若いママは,同じように,低いトーンで静かに答えた。
「そうなの,やっぱり,これは,ちょっと耳が行くわね」
 ブライアン・フェリーの唄う「アヴァロン」は,彼がちょっと大人になった,わたしにはそう思える。わたしはあまり好きな歌手ではなかったのだが,この新しい一枚のアルバムは,なにか良かった。それをママが思いがけなく鳴らしたので,わたしは嬉しい気持になった。
「それじゃ,またね,今夜は,このロキシー・ミュージックに送られて,帰ろうかな」
(後略)」

なんと,マキさんが「ロキシー・ミュージックに送られて,帰ろう」という気分になったことがあったとは・・・。
手元に残っている浅川マキのレコードは,1982年の「CAT NAP」までで,この Roxy Music の "Avalon" も同じ1982年の作品だから,そのころの話ということになるけれども,すでに,フリー・ジャズ的に「難解」な路線を歩み始めていたマキさんが,"Avalon" のサウンドに惹かれていたというのは,非常に意外だった。
それにしても,このアルバムでの Bryan Ferry は,マキさんから見れば「ちょっと大人になった」と思えるわけですか (^_^;)
まあ,恋人だった Jerry Hall を Mick Jagger に寝取られるという貴重な体験をしたあと,一皮むけたところはあると思うが・・・。

『幻の男たち』は,8編の短編からなる単行本。それぞれの短編に「幻の男」として登場するのは,原田芳雄,本多俊之,近藤等則,吉田拓郎,渋谷毅,阿部薫など。
3年ほど前に発行されたエッセイ集『こんな風に過ぎて行くのなら』の中で,Sam Cooke に出会ったときとは,また別の意味で,感慨深かった。


CD 2枚組で \700 という値段に釣られて購入した編集盤に,このアルバムの1曲目 "More Than This" が収録されていて,それを歌っていたのは Norah Jones だった。
◎ Various Artists "The Best Of Lady Sings The Blues (2 CDs)" [Virgin VTDCD 606]
2. Charlie Hunter feat Norah Jones -More Than This
http://www.amazon.co.jp/gp/product/B0001F73OA/
2006年10月26日 23時37分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
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